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コラム「あんな相談こんな事例」(8) 2012年5月

派遣社員の声なき声にもっと耳を傾けて(1)

連合大阪 非正規労働センター 相談員 坂本博信

☆ ☆ ☆

大手企業(製造業)に4年間派遣されていた40代女性からの相談

メールのイラスト 突然派遣元から「今日で派遣終了」と言われた。理由は特定の派遣社員、社員および会社を誹謗中傷する大量の私用メールを別の派遣会社も含む同僚とやり取りしていたこと。私用メールは禁止されていたが、業務外のメールがないわけではなかった。

 相談者からみておかしいと感じるセクハラ・パワハラ、労働条件の改善を申し入れて、苦情対応はしてもらっていたものの相談者にとって納得できる状態にはならなかったため、派遣同士で不満メールのやり取りをしていたところ、その頻度、内容が派遣先の許容する限度を逸脱してしまったようだ。

 例えばエレベーター内で起きた出来事に関し、同乗の証言者もいたので派遣元経由で派遣先に防犯ビデオ開示を申し入れたが開示はむずかしいと言われた。 

 派遣の身分で警察に届けることも出来なかった。他にもチームリーダーの勘違いでフロアに響き渡る大きな声で怒鳴られ、他の社員が勘違いを指摘しても後で謝りもしない。また、知らない社員からの不審メールなど、職を失わないために耐えてきたのに納得できない。

相談への対応

 本人の苦情を踏まえ大阪労働局の雇用均等室に相談するように伝えたが、「内容によっては労働基準監督署に」と言われ、労働基準監督署からは斡旋を勧められた。

 上記の対応を聞き弁護士相談を受けられるように手配をしたが、本人はあまり争いを好まない性格なのでまだ訴訟は考えていない。

 連合加盟の労働組合経由で、調査対応を依頼したが派遣先にも言い分があり覆すのは困難なようであった。私用メールがそもそも契約違反で、派遣終了は派遣先ではなく派遣元が判断したことであった。

 相談を受けた以上、何か相談者にとってためになるよう対処していくつもりで、派遣先や派遣元に派遣先組合の協力を得て来てもらい、相談者と一緒に話を聞いたが覆ることはなかった。もし相談者が正社員であればこういうことにならなかったと思うのは筆者だけであろうか。

 相談者の仕事なり言い分を認めてくれる正社員もおり、「ああいう正社員はその内会社から淘汰される。あなたのほうが正しい」と言ってくれたのがわずかな精神的な救いであった。

 データ打ち込みが22:00までなのに派遣社員を管理すべき正社員が「近くで飲んでいるから何かあったら電話ちょうだい」では、たとえ仕事のシステム化が進み、他の人が手伝いにくい状況にあったとしてもその正社員の仕事に対する取り組み姿勢も疑われる。

 余談になるが、筆者が会社にいた20数年前は女性事務員の仕事が追いつかない場合はその課に残っている者全員で伝票記入を手伝ったもので、それが当たり前と思っていた。

 どの会社にも仕事もでき、人格的にも優れた社員がいる反面、自分勝手な社員もいる。そうした中で派遣社員は、苦情窓口があったとしても、弱い立場ゆえ納得できないことを全て訴えているとは限らないことを派遣元も派遣先も理解すべきではないか。そうした状況を踏まえて日常きめ細かに配慮するとともに苦情を受け付けた場合、派遣社員が納得できるまでしっかりコミュニケーションを図ることが必要であろう。

 今回の相談者のケースも苦情に対する対応に本人が納得いかずに不満を募らせたことがきっかけであり、そこに至るまでに手を打つことができなかったことが残念でならない。

 これまでにも数々の相談で派遣社員も含め、非正規社員の人としての尊厳を傷つける相談が寄せられているが、一部の正社員の配慮のなさを何とかしたいものだ。

(執筆:2011年5月)