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コラム「あんな相談こんな事例」(3) 2005年12月

不払い残業撲滅へ!

連合大阪なんでも相談センター 相談員 衛藤 社司

☆ ☆ ☆

 「労働時間」「休日」「賃金」「時間外労働割増賃金」などが法律に定められて半世紀以上になる。

 なのに「賃金不払い残業(サービス残業)問題」は一向に改善されない、まさに古くて新しい問題ともいえる。ここ数年、労働組合がある一流の大手企業の「不払い残業」の支払命令が報道されるなど、監督官庁の指導が厳しくなり、労働者とその家族の意識が変わりつつあるのか、連合大阪なんでも相談センターでも「残業代不払い」の相談が多い。11月17日から19日の間、連合全体で「不払い残業撲滅特別電話相談」を実施し、連合大阪にも21件(全国では159件)もの相談が寄せられた。

★「サービス残業」しない、させない、意識改革を!

 そもそも、企業に就社(就職)し、終身雇用とOJTにより習熟度を高め、会社人間として企業文化を享受し、良好な労使関係の企業内組合に守られる。そんな環境が「就労時間と残業」の観念を薄れさせてしまったのかもしれない。契約重視型の社会が浸透しつつある今日こそ、経営側も労働側も「労働時間管理」と「労働の対償である賃金」についての意識改革が急務である。

残業する女性社員のイラスト また近年の法改定により「残業の判断規準」がますますあいまいになった。みなし労働時間は、従来の「事業場外労働」に「裁量労働制」が加わった。さらに変形労働時間制、フレックスタイム制、年俸制賃金などは、残業時間算出の隠れみのになる恐れがある。

 最近、悪質な残業隠しも横行している、残業込みの手当「営業手当」「業務手当」、時間外労働の別立て単価契約(割増賃金逃れ)、など法の盲点をついている。本稿では、2件の特徴的な相談事例を報告する。

★「残業時間支給の頭打ち事件」

  電気通信工事を事業としているS社に入社した技術者B君(33歳)は、工事現場のマンションやオフィスビルで日夜業務に励んだ。「みなし残業」と称して54時間を限度に手当が支給されていたが、業績不振を理由に34時間に減額された。それでも入社以来1年間にS社がB君に支払った休日出勤を含む残業手当は50万円あまりであった。B君は毎月支払われる残業手当に納得がいかず、苦情を言ったら専務とトラブルになった。S社を辞めたいと考えたが、このまま辞めると自己都合退職となるし、残業代の未払い分ももらえないのではと相談にやってきた。

 まず、「有給休暇は在籍中に取得すること」「退職の原因が会社にあることを主張し、会社都合退職とすること」「業務日報を基に毎日の残業カレンダーを作成すること」をアドバイス、そしてB君は有給休暇消化後、会社都合の離職票を手にして円満退職した。さて「賃金請求の時効は2年」。慌てることはない。再就職のための技能訓練校に通いながら交渉もできる。残業カレンダーにより計算した残業手当と既に支払われた手当の差額は70万円余であることが明らかになった。

 早速、連合大阪地方ユニオン傘下の大阪地域合同労組に加入、差額分を「時間外労働賃金未払い分」として内容証明郵便で請求、団体交渉の申し入れとなった。

 S社は「事業場外労働」をみなし労働時間として明記していないこと、「みなし残業時間」を決めているため、労働時間管理が不十分であったことを認めた。経営不振も考慮に入れ、解決金30万円で和解協定をして決着した。

★「時間外労働は別立て時間単価の事件」

 2001年設立のコンピューターソフト開発のN社に、契約社員として入社した技術屋M君は、N社が地方公共団体などのIT化の業務を請負った期間ごとに雇用契約内容が更新されていた。

 S県庁の業務6カ月間の契約は基本賃金:月額370,000円(8時間/日、休日:土日祝)は問題ないが、何と契約書には「所定時間外賃金:時間単価1,388円」が明記されている。

 N社は請負事業の納期から恒常的に時間外労働が発生することを見込んで、採算の取れる時間単価をはじき出したのである。本来の時間単価の25%増は2,658円であることから、M君は雇用契約書に押印したものの納得がいかない。この差額を請求したが、応じてもらえないので相談にやってきて、合同労組に加入して団体交渉となった。N社は「雇用契約で了解済みである」との主張は変えなかったが、差額相当分15万余円を解決金として支払うことで解決した。