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コラム「徒然なるままに」(2006年9月)

球児たちの涙から考えること

連合大阪 事務局長 脇本ちよみ

 暑い夏が続いている。
 暑い夏の熱い闘いといえば、やはり「熱闘甲子園」(テレビ番組)だろうか…。私は特に野球が好きでもなく、プロ野球はもちろん高校野球だってそんなに興味があるわけではなく、故郷の高校の勝敗くらいが気になるくらいで、いつもはあまり見ないのだが…今年はこの夜の番組を結構見ることが多かった。

 なぜか考えてみると「逆転、また逆転」というような試合展開が多く、ある意味で「サプライズ」が多くあったことでつい見てしまったというのが本音である。勝っていたのに逆転サヨナラ負けをして泣き崩れるピッチャーの姿や、春夏連覇かと言われながら早くに負けてしまって泣きじゃくる選手たちの姿は「人生いろいろあるよね。きっと立ち直ってまたがんばってね」と思わず声をかけたく(時にはテレビに向かって声をかけていたり…)なってしまう。

 そしてあの決勝戦である。延長15回という試合をあの暑さの中で、あの大きな緊張感の中でやり遂げるその精神というのはどんなんだろうと本当に感心・感激した。翌日の再試合もいい試合だった。あんなにクールに投げ通した投手の斉藤君が、優勝が決まって泣いている姿には思わず胸が熱くなった。

 あの番組の中でしか見られていないが、甲子園でがんばる球児たちの姿はさわやかでいて、しかし、熱く、連帯にあふれたものだった。ピンチの時にメンバーが集まり、ともに同じ指を差し出し深呼吸する姿などは「こんなに仲間に囲まれ充実した青春を送れて幸せだね」とつい声をかけたくなるほどであった。

 親を殺したり、家に放火したりする若者がいるのも事実なら、こうして仲間と共に汗を流し目標に向かって何かに打ち込む若者が多くいるのも事実。この境はなんなんだろうと思う。しかし、この境目はきっとベルリンの壁のように厚くはないと思う。きっとちょっとの狂いでどちらにでも転ぶそんなものだと思うのだ。

 ちょっとした出会いや、できごとや、きっかけが、感じやすい彼らの心の琴線に触れることで、転落も立ち直りもあるような気が私はしている。だからある意味、彼らの境目を作っているのは私たち大人、大人社会ではないか…と。

 雇用や所得の格差や二極化が言われている。そしてそれらの格差が結果的に子どもたちの将来への夢や希望にまで影を落としていると言われる。多くの子どもたちや若者が、甲子園での熱い闘いを繰り広げた彼らと同様に、夢や希望に向かって思い切り取り組める、そんな社会を創る責務が私たち大人にはあるなぁと改めて思ったところである。