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第5期・多発する労使紛争の相談解決能力養成講座・第2回<報告>

部分的にでも、労働者を支配・決定できれば「使用者性あり」─「朝日放送事件」で使用者性を学ぶ─

連合大阪 組織拡大・中小拡大部長 香川 功
講師:在間 秀和 弁護士
蔵重 信博 弁護士

 連合大阪は12月14日「使用者性」をテーマに標記講座を開き、連合大阪法曹団幹事の在間秀和弁護士と蔵重信博弁護士から講演を受けた。以下は本講座の概要である。

団体交渉を申し込む相手が使用者

 通常団体交渉は、組合員の労働契約上の使用者ないし使用者団体と労働組合の間に行われる。労働組合法では「使用者又は団体」との団体交渉権を認めている(同6条)。また、使用者に組合活動を理由とする不利益取り扱い、団体交渉拒否、組合の運営に関する支配介入を禁止している(同7条1〜3項)。このように、労働組合が法的に団体交渉を申し込む相手が使用者である。

実体上の「使用者性」があるかが問題

 一般的には、企業内労働組合は交渉相手として、自分の勤務している企業に対して団体交渉を行う。しかし派遣に関する労働者の場合は二つのタイプがあり、一つは派遣会社(派遣元)に登録して他社(派遣先)に派遣される派遣労働者、もう一つは正社員として企業に籍を置くが、業務の関係上、他社に派遣される労働者である。

 最近では多用な雇用形態が存在するため、労働者の労働条件が一方的に変更された場合、交渉相手が勤務先(派遣先)企業となるか、つまりはその企業に、団体交渉の相手となる実体上の「使用者性」があるかが問題になる。

「朝日放送事件」では、最高裁で労働者側が勝訴

 本講座では、4つの集団的労働関係の判例を解説したが、ここでは代表的な「朝日放送事件」(最小判95.02.28)を紹介する。

 この事件は、朝日放送の番組制作業務を下請けとしていたA、B、Cの3社の従業員(組合員)が、派遣先の朝日放送を使用者として、団体交渉を申し込んだが拒否された事件である。労働委員会、中央労働委員会は、労働側支持の命令を出した。一方朝日放送側は、東京地裁に労働委員会命令の取り消しを求めたが敗訴、そこで控訴し東京高裁では地裁判決および中労委を取り消しの勝訴を得た。そこで中労委と労働組合は上告し、最高裁で争うこととなった。

 同事件で最高裁は「労働組合法7条の『使用者』の意義は、一般的に使用者とは労働契約上の雇用主をいうが、同条が団結権の侵害に当たる一定の行為を不当労働行為として排除、是正して正常な労使関係を回復することを目的としていることにかんがみると、雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件などについて、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、事業主は同条の『使用者』に当たるものと解するのが相当である。」との判決が言い渡され、「朝日放送側に、部分的使用者性がある」と労働者側勝訴の判断を下した。

労働組合は責任を持って、組合員の労働条件の回復・向上を

 本判決を生かし、同様な場合において、労働組合としても派遣先企業側から「うちには団体交渉の応諾義務はない」と通告を受けたとしても、黙って引き下がってはいけない。なぜなら、労働組合は責任を持って組合員の労働条件の回復・向上に努めなければならないからである。

 逆に派遣先の企業の労働組合も、派遣者の労働条件などについて会社側との協議を怠ると、他の労働組合より団体交渉を申し込まれ、自社の労使関係に混乱をきたすことも考えられるので、この点は十分考慮すべきである。